心静かに過ごしたい。内面を整えるための白金台さんぽ

新しい季節がやってきて、新生活に突入する方も多い時期。はじめての場所や初対面の人に囲まれて、ちょっと疲れが出てしまうこともあるでしょう。そんなときでも人にやさしくなれる余裕を持って過ごせるといいですよね。今回は自然や感覚に耳を傾けるおさんぽに出かけましょう。

今日はちょっと早起きして、都営三田線・目黒線が乗り入れている白金台駅からスタートです。

今回のおさんぽルート

白金台駅→①白金台珈琲 Kuromimi Lapin→②国立科学博物館附属自然教育園→③東京都庭園美術館→④À L’AUBE→白金台駅
※コロナウィルスの感染拡大を防ぐため臨時休館している施設もあります。詳しくはホームページで確認してください。

行程:3.5km
歩数:5,000歩
所要時間:50分+見学、お茶、ランチ
予算:4000円

新しい駅なので改札前に広い手洗いがあって使いやすく、バリアフリー対応もされている。

白金台駅は2000年に開業した駅。1998年に女性誌「VERY」の編集長が名づけた“シロガネーゼ”という言葉が流行し、目抜き通りであるプラチナ通りには上品で高級な、白金らしい店舗が今でも並んでいます。

ちなみに、“シロガネーゼ”という言葉からつい“シロガネ”と読んでしまいがちなのですが、白金台は“シロカネダイ”と濁点がつかないのが正解。

駅前の通りは目黒通り。プラチナ通りは、この通りとぶつかる外苑西通りのこと。
ラグジュアリーなお店ばかりじゃなく、八百屋さんもある。昔から住んでいる方も多いのだそう。

そんな白金台で一軒目に訪れたのは、おいしいコーヒーのお店。

わたしは普段も予定よりちょっと早く家を出て、どこかでコーヒーを一杯飲み、一瞬ひとりで心を落ち着けてから仕事に向かうんです。そのほんのひとときがあるだけで、頭がクリアになる感じがするんですよね。

でも、コーヒーの産地や味には詳しいわけではないので、コーヒーのプロに伺ってみましょう。

1 コーヒーのすべてがわかるお店でサンドイッチモーニング

やってきたのはこちらのかわいい看板のお店。
カウンターとテーブル席のあるちいさなお店を、ご夫婦で営んでいる。

突然ですが、みなさんはコーヒーを飲むとき、どんなふうに淹れていますか? わたしはコーヒーメーカーに豆をザザザッと入れてボタンを押すだけで、あとはできあがりを待つばかり。もちろん豆をじっくり見たことなんてありません……。

お店に入ると、ご主人がまず一杯とハワイで採れた豆でコーヒーを淹れてくれ、さまざまな生のコーヒー豆を見せてくれました。入っていたのは、虫喰いがあったりカビていたり傷んでいる豆ばかり。

でもこれ、実はローストしてしまうとほとんど見分けがつかなくなるため、どんなに高級な豆でも、どこで仕入れたものでも、必ずこのような豆が混入しているんだそうです。そして当然、悪い豆が入ったまま淹れてしまうと、味に雑味やえぐみが出てしまうといいます。

このお店では、仕入れた豆を一粒一粒ご主人と奥さまが手作業で仕分けし、傷んでいない豆だけを選んで、毎日使うぶんだけ焙煎しているんです。取材中も奥さまがずっと豆を選り分けていらっしゃいました。

エチオピアのコーヒーは甘い香りで、心からおいしいと思った。

また、コーヒー豆は意外にも脂質がわりと高く、生豆の状態でも10〜20%あるんです。この油が酸化してしまった豆を挽いて飲むと、お腹が痛くなったり緩くなったりしてしまうらしいのです。

ご主人曰く、昔はそういう豆でも安全に飲めるように、深煎りしてしっかり火を入れたコーヒー豆を使う文化があったそうですが、このごろ浅煎りがトレンドになってきているので、“コーヒーを飲むとお腹の調子が悪くなる”という人は、コーヒーそのものが合わないのではなく、豆の選び方や焙煎の仕方が身体に影響していることが多いのでは? ということでした。

なるほど……。
ご主人の話はまだまだたくさんあって、全部書ききれないほど! 最近沖縄で増えてきている国産豆のこと、輸入豆の運搬のこと、料理のこと、焙煎の技術について……。飲食業界で長く働き、コーヒーについて論文や研究記録までも読み漁って学んだご主人のお話は深くて、わたしはコーヒーに対する考え方や見方がぐっと変わりました。お聞きすると惜しみなく教えてくださるので、コーヒー好きな方はぜひお話を聞きに行ってみてください。

ちなみに世界のコーヒー豆のうち、値の張るもののほとんど日本の企業が購入しているそう。せっかくならそのいい豆を、いい状態で飲みたいもの。手軽でたくさん飲めることよりも、一日のうちにおいしい一杯だけを楽しむと決めて、ちょっと豆選びに気をつけてみようかな。

10000回淹れたら10000回違う淹れ方をしている、というご主人の手元を見ていると、本当に繊細にお湯を注いでいるんですよね。

味見でいただいたエチオピアのコーヒーは、これまでに感じたことのない味で、胃を刺激しないまあるい味わい。尖っていないのに、きちんとコーヒーらしい刺激は感じられる一杯でした。忘れられない一杯になったなあ。

って、締めそうになりましたが、モーニングをいただきたかったので、サンドイッチをいただきました。これがまたおいしかった……。
トマトやきゅうり、ハム、チーズと入っているものはごく普通なのですが、厚めにカットされたチーズの塩気と、あっさりした野菜がしみじみおいしくて。調味料で誤魔化していないから、一つひとつの食材の重なりが感じられる一品でした。

白金台珈琲 Kuromimi Lapin 
東京都港区白金台5-17-8-2F
03-5422-9638
営業時間 8:00~19:00
定休日 木曜、第1・3月曜(不定休あり)
https://shirokanedai.thebase.in/

朝少し早く起きて、ちょっとこうして朝ごはんの時間をとってから活動すると、一日が長く感じられて得した気分ですよね。

今度は目黒通りに出て、自然いっぱいのあの場所へ向かってみましょう。

2 時代が変わっても守られている自然の中で森林浴

向かったのは、国立科学博物館附属自然教育園。古くは高松藩主松平讃岐守頼重の下屋敷だった場所を昭和24年から「天然記念物及び史跡」に指定し、ここにある自然に手をつけないよう守ってきた場所。

園内おさんぽできるコースもありますが、一部管理や研究をする人だけしか入れないゾーンも設けられていて、さまざまな研究やデータ収集がなされているんですよ。

昭和37年から国立科学博物館の附属となったそう。

中に入ると、右側に教育管理棟という建物があります。こちらで入場料(一般・大学生は320円/65歳以上および高校生以下は無料)を払いつつ、ミュージアムショップや展示品を見せていただきました。

スタッフさんおすすめの、植物画コンクール入選作品展の絵葉書。
繊細な絵で描かれた葉書を見ていたら、誰かに手紙を書きたくなる。

外へ出たら、ただただ無心に園内を散策してみましょう。好きだなと思った植物の写真を撮ってみてもいいし、東屋に座って絵を描いたりお茶を飲んだり、好きな過ごし方ができる場所です。

遠く遠く、空高くまで伸び続ける大きな木もあれば、気がつかないと通り過ぎてしまうくらい小さな花が足元で咲いていたり。

開園以来、さまざまな人の手で守られてきた自然を壊さないようにしたいものですね。最後に見えたこの看板がなんだか胸に刺さりました。

季節によって見所となるポイントが変わるので、ホームページで公開している「見ごろ情報」をチェックしてみてください。園内を研究員と散策するなどのイベントも開催していますよ。

国立科学博物館附属自然教育園 
東京都港区白金台5-21-5
03-3441-7176 (代表)
開園時間 9月1日~4月30日 9:00~16:30 (入園は16:00まで)
5月1日~8月31日 9:00~17:00 (入園は16:00まで)
休園日 毎週月曜日 (ただし、祝日・休日の場合は開園し、火曜日が休園)祝日の翌日(ただし、土・日の場合は開園)年末年始(12月28日~1月4日)
http://www.ins.kahaku.go.jp/

つづいてはお隣にある「庭園美術館」へ行ってみましょう。

3 建物を見るのが楽しみのひとつ。アール・デコが美しい美術館

こちらの東京都庭園美術館は、久邇宮朝彦親王の第8王子鳩彦王が1933年に自邸として建てた建物。アール・デコ全盛期だったフランスを訪れた朝香宮ご夫妻が、さまざまな職人の腕を借りて創り上げた建築物です。
建物の至るところにアール・デコを思わせる装飾がなされていて、その繊細な一つひとつを見つけるたび胸が躍ります。

フランスの絵本コレクションやアール・デコについて、ジュエリーや七宝展など、催される展示会を楽しむ一方で、この建物そのものに目を向けてみるのも楽しみのひとつ。

この建物をもっとじっくり見られるようにと、年に一度「建物公開展」も開催されているんです。作品の飾られていない空間はまた独特で、人が住んでいたときの気配が感じられるような気がします。この市松模様の床のお部屋からは、外の日本庭園が見渡せるようになっているんですよ。なんだか贅沢な空間です。

もちろん、展示には展示のよさが。取材時は、この建物の建設に関わったガラス工芸家のルネ・ラリックの展示だったので、食器やパフュームボトル、ジュエリーなど、輝きある作品を満喫することができました。

こちらは、子どもたちも楽しめるお部屋。折り紙や塗り絵などがあるほか、美術館内で観られる床材やガラス、壁紙などを模した積み木があって、触れながら美術館を感じることができるようになっています。

庭園内にはベンチやテーブルもあり、お弁当などの持ち込みもできる。

美術館というと堅苦しいイメージがあるかもしれませんが、朝香宮家……つまり、人のおうちにお邪魔すると思うと、たくさんの見所を発見できると思いますよ。たとえばご主人の部屋やお姫さまの部屋など、どなたの部屋かで壁紙の色や照明が違うことや、書斎やバスルームの装飾がどうなっているか……。
そうやって観ていくと、きっとこの広々とした空間にうっとりできる時間が過ごせることでしょう。

東京都庭園美術館 
東京都港区白金台5-21-9
03-5777-8600 (ハローダイヤル)
開館時間 10:00-18:00 (入館は17:30まで)
休館日 毎月第2・第4水曜日(祝日の場合は開館、翌日休館)、年末年始
https://www.teien-art-museum.ne.jp/

さて、のんびり歩いていたらおなかが空いてきましたね。

白金台でランチができるお店を探してみたのですが、場所柄わりとちゃんとしたコース料理のお店などが多く、ひとりでちょっと、というお店はそう多くありません。庭園美術館のカフェが空いていればそちらもオススメですが、今日はプラチナ通りまで戻って、新しくできたお店に向かってみましょう。

4 広々とした一軒家で身体にいいランチがいただけるお店

プラチナ通りからちょっと入ったところにある、隠れ家のようなお店「À L’AUBE(アロウブ)」。

あの有名なFrancfranc(フランフラン)の新ブランドで、カフェだけでなく、雑貨やファブリック、キッチン用品などが一軒家をまるごとリノベーションした広々とした空間に並んでいます。

都心から車を走らせて行ける水辺のリトリートハウスをイメージしたブランドとあって、この空間にいるだけで癒されます。

ランチをいただく前に、二階建てのお店の中をぐるりとしてみましょう。

めずらしい形のドライフラワーもいっばい。
左下に見えるのはなんとシナモン! おなじみのいい香りです。

ちょっと何か手土産が必要なときや、何かのお返しを贈りたいとき、ひさしぶりに会う友だちへのプレゼントなどを選ぶとき、デパートの中をぐるぐるまわっても全然いいものが見つからない! ということってありませんか? 

わたしにとってÀ L’AUBEは、「ここにくれば何かいいものが見つかる」というお店。たとえば男性に、あるいは年上の女性に、最近知り合った自分より若い友だちに、誰に向けてのプレゼントでも、ここにくるとぴったりのものが見つかるんです(もちろん自分へのご褒美も)。

行くたび少しずつ商品が変わっていて楽しいのですが、今回見つけた「いいもの」はコレ。木製のワインストッパーです。ちょっと晩酌に一杯ワインを、という日課のある方にはぴったり。こういう自分のための、気分がちょっと上がるアイテムって大切ですよね。

買いたいものだらけでうろうろしすぎたところに、ランチがやってきました。

注文したのは野菜のスモーブロー(1600円)とスープ(小・500円)、白のドーナツ(200円)

À L’AUBEのカフェでは、健康にも気遣いながらおいしくいただけるメニューが並んでいます。

今回頼んだスモーブローはデンマークの伝統料理で、いわゆるオープンサンドのこと。ライ麦のパンに、アボカドやブロッコリーをクリームチーズであえたペーストに半熟たまごがのったスモーブローと、店内で作っているという自家製のソーセージがボリュームのあるプレートです。お野菜もたっぷりで嬉しい。

ライ麦のパンをのせたスープ、この日はにんじんと新玉ねぎのクリームスープ。
旬の食材を大切に考案されていて、季節によってメニューも移り変わる。

こちらのメニューで嬉しいのは、ワンプレートランチの他に、別途スープとサラダが大小2サイズ用意されていたり、パンやミューズリーのメニューもあったりするところ。ランチを食べるほどじゃないけれど……、というときはラージサラダとスモールスープとか、ラージスープとパンだけにするとか、自分のお腹の調子に合わせて選べるのはいいですよね。

こちらはお店の外にあるテラス席。暖房があるので肌寒い日でもあったかい。
店内にもカフェスペースがあります。

カフェで使われている食器は、フランスの作家さんが作ったもので、店内で販売もしています。使い心地やスタイリング、盛りつけの仕方を参考にできるのも嬉しいところ。

リンゴとフルムダンベール(ブルーチーズ)焼きドーナツ。

最後に注文したのは、ちいさなデザート。パウンドケーキ型の焼きドーナツはこちらの白と、バナナやカカオ、栗でできた黒のドーナツの2種類。他にもパフェやショコラケーキもあるので、おやつの時間に来るのもオススメ。

もともと騒がしい街ではないけれど、大通りからちょっと入っただけで、平日の日中でもテラス席はとっても静か。いろいろなことにとらわれないで、おいしいものをいただきながら開放的なひとときを過ごしてみてくださいね。

À L’AUBE
東京都港区白金台4-19-20 
03-03-6456-2927
開館時間 Boutique 11:00~19:00 Café 11:00~17:00 (LO 16:00)
https://a-laube.com/pages/shirokanedaistore

あとがきにかえて
今回、実は国立科学博物館附属自然教育園と東京都庭園美術館は、コロナウィルスの感染拡大を防ぐため、閉園・閉館している中で取材させていただきました。国立科学博物館附属自然教育園は開園予定がまだわからず、東京都庭園美術館は3月中の閉館を決めています。今後の開園・開館情報は各ホームページをご覧になるか、それぞれの施設にお問い合わせをお願いいたします。

また、国立科学博物館附属自然教育園では、毎日スタッフの方が園内を散策して情報を毎週「見ごろ情報」にまとめてホームページ上で公開しています。東京都庭園美術館では、ホームページの「フロアマップ」というところをクリックすると、館内をグーグルマップで巡れるようになっています。外出しなくても、このふたつの施設が楽しめたら何よりです。

このような事態になって、おさんぽどころじゃない! という不安な日々。いつかまた心置きなくおさんぽを楽しめる日のために、そしてバーチャルではありますが、今回のおさんぽが少しでも外の風を運ぶお手伝いになりますように。

おさんぽおさらい

白金台駅→①白金台珈琲 Kuromimi Lapin→②国立科学博物館附属自然教育園→③東京都庭園美術館→④À L’AUBE→白金台駅
※コロナウィルスの感染拡大を防ぐため臨時休館している施設もあります。詳しくはホームページで確認してください。

行程:3.5km
歩数:5,000歩
所要時間:50分+見学、お茶、ランチ
予算:4000円

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さんぽに行ったライター

ライター・料理家。 出版社に勤務したのち、フリーライターに。食をテーマにした記事やグルメ取材、食品パッケージのコピーなどの執筆のほか、「野菜をもっとおいしく」をモットーに、レシピ開発や撮影のフードスタイリング・調理にも携わる。ロケ弁やケータリングフードを作る「オウチゴハンヤ」も時おり開業。4歳と12歳の母でもある。