東京都の市町村の中で八王子についで二番目に人口の多い都市、町田。
駅を降りてぐるりとするだけで、その充実ぶりに驚くかもしれません。ルミネに丸井、小田急百貨店に東急のショッピングセンター、ヨドバシカメラに手芸のオカダヤにヤマダ電機にと大型店があるだけでなく、昔からつづく商店もこの街にしっかり根ざしています。
今回はそんな町田で、古きよき風景を見つけてきました。
今回のおさんぽルート
町田駅→①ひじかた園→②仲見世商店街→③町田市民文学館 ことばらんど→④武相庵 Library & Hostel→⑤町田ツーリストギャラリー→町田駅
行程:1.8km
歩数:3500歩
所要時間:20分+食事、お買い物
予算:2500円ほど
町田に来たのは、30年ぶりくらいでしょうか。隣の多摩市で幼少期を過ごしたわたしにとって、町田は憧れの街。小学生の頃は、友だちと連れだって洋服を見に来たり、高さが30cmあるパフェや名入れのキーホルダーを作ってくれる店などを目当てに、よく出かけたものでした。
ふだん、取材のときは先に紹介したい店舗をピックアップしておき、事前に許可をとってから伺うのですが、今回はさまざまな出会いに突き動かされ、予定していなかったお店もご紹介することに。
そんなふうに偶然の出会いがあるのもさんぽのいいところだなあ、ということをしみじみ思ったおさんぽの一軒目は、お茶の専門店です。
1甘い香りの自家焙煎ほうじ茶がいただけるお店
最初のスポットに向かおうと思っていたところで、ふと気になったこちらのお店は「老舗 ひじかた園」。ちらりとのぞくと、何やら見たことのない汽車のようなものがあり、興味があって中へ。
聞いてみると、これはお茶を焙煎する機械なのだそう。上から茶葉を入れて火をつけて焙じることで「ほうじ茶」ができあがるという、焙じ機なのです。
昭和10年創業という、町田でいちばん古いこちらのお茶屋さん、現在は4代目のご主人が営んでいて、自家焙煎のほうじ茶をはじめ、日本茶、お抹茶、中国茶、ハーブティーなど、さまざまなお茶が楽しめます。
そんな中でいちばんのおすすめを聞いてみると、「マテ茶って知ってる?」と。名前を聞いたことはあったけれど、どんなお茶かさっぱりわからず。なんと世界のお茶消費量トップ3は、「コーヒー、紅茶、マテ茶」なんだそう。知ってました?
マテ茶は、南米に生息するモチノキ科の木の葉や枝を煮出したもので、“飲むサラダ”というキャッチコピーがつけられるほど栄養満点の飲み物。鉄分が豊富で女性には嬉しいお茶です。
マテ茶の飲み方は少し風変わり。下に見える壺のような形の“グァンボ”という茶器に茶葉とお湯を入れたら、この穴あきのパイプのようなストローでお茶を吸うのです。このストローが茶こしの役割をしてくれるので、口の中に茶葉が入らない、という仕組み。目が細かいので、マテ茶だけでなく日本茶や中国茶でもこの茶器を使いたくなるくらいのかわいさです。
話し上手で気さくなご主人は、お茶のことだけでなく、いろいろなことを教えてくださいました。たとえば、以前JR(当時国鉄)町田駅はこの付近にあったそうなのですが、小田急線町田駅と700mほども離れていたことから、その両駅を結ぶ通りは「駆け足道路」と呼ばれていたんですって。乗り換えで慌ただしかった朝のようすが目に見えるようですよね。
お買い物がてら、おいしいお茶を探しに行ってみてくださいね。
老舗 ひじかた園
東京都町田市町田4-3-6
042・722・3265
営業時間 9:30-19:00(二階は11時〜)
定休日 水曜
http://www.hijikataen.com/
さて、「老舗 ひじかた園」を出るとすぐ見えるのが、この行列。
平日の午前中と夕方の二度ここを通りかかりましたが、どの時間帯もこんなふうに混んでいます。なんのお店でしょうか?
実はここ、「仲見世商店街」の入口だったんです。
2お腹を空かせて行くべき商店街
アーケードになっていて雨の日の買い物も便利なこの商店街には、現在43店舗のお店が立ち並んでいます。
左側のお店が、行列になっていた「小陽生煎饅頭屋」です。
でも「小陽生煎饅頭」って、なんでしょう?
漢字の読み方も難しいですよね。「小陽生煎饅頭」は「しょうようせんちんまんじゅう」と読みます。上海のもので、日本でいうところの小籠包を焼いたもの、ということのようなのですが、食べてみると只者の小籠包ではないことがわかります。
お饅頭は偶数で購入することができますから、まずは2個とか4個とか食べられる分だけ購入して、お店の脇のスペースで食べるのがおすすめ。とにかく焼きたてを食べてほしい!
どんな食べものなのか、というと、店先に食べ方を説明した張り紙がしてあるのですが、まず「皮の上部に箸で穴を開けて中のスープを飲み干す」って書いてあるんです。スープ? どういうこと? と思いながら、やってみて意味がわかりました。この中に信じられないくらいのボリュームの肉汁が入っているんです。つまり、がぶっとかじってしまうと絶対にこぼれてしまうので、まずスープを、ということなんです。それからお饅頭をいただきます。
お饅頭の皮は小籠包のものよりずっと厚くてもちもちで、こんがり焼けた底の部分は硬いくらいにカリッとしています。その皮の食感の違いと肉汁の旨味にすっかり虜になり、ひととおり取材を済ませた帰りに20個買っちゃいました。テイクアウトして温め直してももちろんおいしかったのですが、やはりできたらその場で食べてほしい一品です。
つづいて入口右側のお店へ。
こちらはフィリングの種類がたくさんある大判焼き屋さん。お惣菜やおにぎりなども売っていますが、おすすめはこの「ポンポン焼き」。ぱくっとつまみながらのおさんぽにぴったり。
ちなみにお饅頭屋さんの隣にも、添加物不使用のお惣菜やおにぎりを売るお店があるんです。
序盤から買い物していきたいお店ばかりなのですが、ここで買ってしまうと荷物が大変なので、帰りに一斉に買うことにしましょう。どうしてもという方は、駅のすぐそばにコインロッカーがありますよ!
さて、そこからちょっと中へ入っていくと「市川豆腐店」の看板が。
仲見世商店街の中で昔から残っている3軒のうちのひとつ「市川豆腐店」は、今年で創業69年だそう。店先にいた常連さんに「ここに来たなら厚揚げがおすすめよ」と教えていただいたので、厚揚げを購入することに。「今ちょっと食べていきなさいよ」と、揚げたてもサービスしてもらいました。菜種油で揚げている厚揚げはしつこくなくて軽やかで、中はジューシー。
そしてどうしても買いたくなってしまったのがこれ。糠漬けです。
若い糠で漬けたものは塩辛かったり旨味があまり感じられなかったりしますが、長年使い続けてきた糠で漬けたきゅうりは甘みがあり、糠の深い香りがしました。
ちなみにわたしはおからも大量購入。予め袋詰めして売られているようなパウダー状のものではなく粗絞りのおからなので、そのままサラダにできるんです。
さらに奥へ進むと、市川豆腐店のご主人が「あそこの魚屋さんもずっと昔からある店だよ」と教えてくれたお魚屋さんが見えました。上からぶらさがったお金の入ったカゴに、お魚を包む新聞紙やビニール、秤……。わたしが子どもの頃、かろうじてまだあったこの光景も、今ではほとんど見られなくなりましたよね。
仲見世商店街
東京都町田市原町田4-5-14
仲見世商店街を出たら、ちょっとだけ歩いて次のスポット「町田市民文学館 ことばらんど」に向かいます。
みなさんは「町田にゆかりのある著名人」をどのくらいご存知でしょうか? わたしが個人的に好きなのは、トマソンで有名な赤瀬川原平と詩人の八木重吉のおふたり。
八木重吉は、生前たった一冊の詩集しか出版しなかったほぼ無名の詩人だったのですが、29才で亡くなったあと、広く知られるようになった人。一行詩と呼ばれる一行しかない詩を含め、八木重吉の書くものはどの詩もコンパクト。その短い言葉の中に、熱い気持ちや情景を鮮やかに表現できる、まさに天才というべき人です。
記念館が町田市にあるのですが、町田駅からバスで1時間強かかるという……、町田ってすっごく広いんですよねえ。いつか行ってみたい場所のひとつです。
3町田市民文学館 ことばらんど
さて、町田市が運営するこちらの施設では、ことばや文学に関する資料が、絵本やまんがなども含めてさまざま閲覧することができます。
二階には展示室があり、取材日は随筆家である白洲正子さんのライフスタイル展が行われていました(2019年12月22日まで)。今も町田市に残る「旧白州邸・武相荘」で過ごされたようすや、彼女が愛した骨董やアクセサリーなどが展示されています。
彼女が集めた九谷焼や魯山人の図皿、ものを大切にする心を持った正子が呼び継ぎをしたお皿の他に、文鎮がわりにしていた勾玉のような形の石など、一つひとつの品物にストーリーを感じる展示会でした。
中でもわたしが胸を打たれたのは、二郎が書いた、たった二行しかない遺言。実は次郎の父も同じように書いたというその二行に、遺される者への愛を感じずにはいられません。ぜひその力強い自筆の言葉を見てみてくださいね。
来年は1月18日より、没後50年を迎える三島由紀夫の展示がはじまりますので、お楽しみに。
町田市民文学館 ことばらんど
東京都町田市原町田4-16-17
042・739・3420
営業時間 10:00-17:00(会議室・保育室の貸し出し・文学サロンは9:00-22:00)
定休日 月曜日・第2木曜日(ただし祝日にあたる場合は開館)・年末年始(12月29日~1月4日)
http://www.city.machida.tokyo.jp/bunka/bunka_geijutsu/cul/cul08Literature/index.html
次に向かうのは、町田のおみやげが一挙に揃う「まちの案内所 町田ツーリストギャラリー」。2年に一度有識者が認定する「まちだ名産品」をはじめ、イベントや飲食店の情報がピックアップできるんです。
4町田のことならなんでもわかるショップ
どこに行こうか迷ったら、ここで情報収集を。こんなふうに街のことがわかると、さんぽもしやすいですよね。イベント情報もゲットできるので、次はいつ頃こようかな、という計画も立てやすいんです。
そして町田市で作られる名産の商品数の多いこと! 福祉作業所で作られるお菓子や、町田駅からはちょっと遠いお煎餅屋さんのもの、また、はちみつや、まちだシルクメロンといった、町田ならではの食材を使ったものもたくさんありました。
気に入ったおみやげは、好みのものをちょっとずつ集めて箱詰めし、送ることもできるんです。旅先からだと仰々しくなってしまう贈り物も、町田さんぽのついでなら気軽でいいですよね。お世話になっている方やおいしいものが好きな人にプレゼントしてみては?
まちの案内所 町田ツーリストギャラリー
東京都町田市原町田4-10-20 ぽっぽ町田1階
042・850・9311
営業時間 10:00-19:00
定休日 年末年始
https://machida-guide.or.jp/
ちなみにこのツーリストギャラリーは、「ぽっぽ町田」という建物に入っているのですが、同じく一階には北海道と沖縄の物産ショップが入っているんです。それぞれちらりとのぞいてみたので、おすすめの品をご紹介しましょう。
北海道物産ショップで見つけたひとつめはコレ。使い捨てできるジンギスカン簡易鍋。さすがにジンギスカン鍋を購入するのは勇気がいりますが、これならほしい……。
そして札幌のコーヒー豆専門店「早川コーヒー」からやってきていたのは、焙煎温度別になっている豆。豆を焙煎する温度が低いほど酸味が強くなり、高くなると苦味のある味になるそうで、飲み比べが楽しそう!
沖縄物産ショップの方は、沖縄そばや島豆腐、スターフルーツやヨモギ、ヘチマなどの生鮮食品も多く取り揃えられていました。おすすめは、ひとつは持っていたいシリシリ器。そしてアメリカンなパッケージがかわいいマーガリン。これぞマーガリンというかわいらしいロゴですよね。
「ぽっぽ町田」の外には、座れるコーナーがあります。この日は暖かかったこともあって、おじさんがうつらうつらしていたり、ソフトクリームを食べる人がいたり、コーヒーを楽しむカップルがいたりと、穏やかな午後のひとときでした。
そして最後に向かうのは、昨年オープンしたばかりの「LIBRARY & HOSTEL 武相庵」。カフェとライブラリー、ホステルが一緒になった楽しい場所です。
5だれかの本棚をのぞいているような気分になるライブラリー
地域初となるホステルは、本好きにはたまらないところでした。早速中をご紹介しましょう。
1階にも大きな本棚に魅力的な本が並んでいましたが、2階のライブラリーは、壁一面が本棚になっていて、まんがや旅のガイドブック、小説、お料理の本などさまざまなジャンルのものが置かれていました。16時までならカフェのお客さまも入れるそうです。
ところどころにアート作品も飾られていて、ギャラリーにもなっているんです。かと思えばボードゲームがぎっしりと入った棚もあったり、来た人が思い思いに過ごせそうな空間でした。
そしてなんといってもおいしいメニューが豊富なこと。ランチはもちろん、焼き菓子やケーキは、先ほどのツーリストギャラリーにもあった町田の名産品「こがさかベイク」のものとあって、楽しいおやつタイムが楽しめそう。
武相庵 LIBRARY&HOSTEL
東京都町田市原町田4-10-12
042・860・7817
営業時間 8:00-21:00
定休日 無休
http://www.busoan.com/
これで今回ご紹介したい場所はおしまい。
なのですが、最後におまけをひとつ。
この建物に驚いて、思わずパシャリ。お菓子作りをする人なら知っている「富澤商店」はなんと今年で創業100周年になり、実は町田が本店なのだそう。
古くから街を支えるさまざまな商店が、今でも町田の活気の元になっているのかもしれませんね。
おさんぽまとめ
町田駅→①ひじかた園→②仲見世商店街→③町田市民文学館 ことばらんど→④武相庵 Library & Hostel→⑤町田ツーリストギャラリー→町田駅
行程:1.8km
歩数:3500歩
所要時間:20分+食事、お買い物
予算:2500円ほど